劇団・本谷有希子(アウェー)「密室彼女」@ザ・スズナリ


乙一の原作を本谷が脚本化し演出するという、コラボレート番外企画。現役小説家とコラボして演劇って、ありそうであまりない企画かも。面白い事考えたな。チラシのクオリティも良ければ、本谷の付けたタイトルのセンスもいい。さすが若き演劇界の旗手。オーソドックスなお芝居もいいけど、こういう新しい事これからもどんどんやって欲しい。この先ますます目が離せそうにない。開演前には、本谷嬢の声でアナウンス。「入場時に渡しましたミニブックレットの裏側には乙一氏の原稿が掲載されていますが、ネタバレになりますので絶対に終わるまでは開かないで下さい。もし開いたら係りの者が止めに参ります、、、」なんて言って地味に笑いとってた。
ビルとビルの狭間に出来た5m四方ほどのスペース。タイヤ、ロッカー、ガラクタなどが散らばっている。天井部分のセットの造りがいつものごとくいい感じ。人が抜けられるほどの隙間も無く、たまたま出来た密室のようなこの空間に彼女は落ちてしまったらしい。それも何故かママチャリとともに。落ちてきたママチャリで頭をケガした男と2人の密室生活が、かるーくゆるーい感じで始まる。何故かたまに空から降ってくるお菓子(かきもち)で飢えをしのいでいたりする。ビルの狭間だからなのか、エコーのかかった叫び声の演出が面白い。 まずびっくりしたのが、吉本菜穂子。今までは、ちょっとバカっぽくてヒステリックなノリの役が多かったけど、今日は”別人!”。服装、髪型、メイク、演技、声質、立ち姿。ここまでかわいくなっちゃうんだ、と感心し、うっとりする。今までの彼女を知ってるだけにその落差が見事。黒いキャミソールの上に白いホルターネック!、その上に黄緑色のカーディガン、下は黒のバミューダパンツの上に膝上ぐらいの黒スカートを重ね、膝下から伸びる生足に目がいく(カーディガン脱いで、ホルターネック姿見せてほしかったなぁ)。ヒステリックな声は鳴りをひそめ、どことなく弱々しい。ほぼ劇団専属&看板女優の吉本が新しく見せた乙女チックな一面。彼女を軸に話は展開していく。
時間が移り、場面が変る。同棲していた女を殺してしまった男2人、死体を運んでいる所を目撃し2人に監禁される通りすがりの女。逃げてる時に自転車で派手に転倒し捕まってしまうのだが、頭を打ったのをいいことに記憶喪失の振りをして危険から逃れようとする。好きだった女性の幻影を彼女に見る片方の優しい男。もう片方の疑い深い男は彼女の記憶喪失を疑っている。名前も覚えていなかったので殺した女性の名前で呼ばれるようになると、次第に(2人に聞いた話などから)その女性を演じるようになっていく。Sな彼女を演じてやるSMごっこが面白かった。男は昔同棲していた女性が蘇ってきたような感覚を覚え、女は優しい方の男に錯覚したような恋愛感情が生じていく。 大事なものをなくしてしまった事で気付く感情、自分を消しさる事で見えてくる本当の気持ち。すれちがう感情と軽い苛立ちを軽いタッチで描く。中でも、自転車に二人乗りするシーンがとても印象的だった。吉本が後ろに女の子座りなんかして腰に手をまわし頭をもたれかけ、こっそり口紅を塗り直すところがかわいい。文学的でもあり、映画的でもあり、今までの作品にはないものを見た感じ。 最後は男2人仲違いをしたかのような芝居を打ち、まんまとだまされたように見えた女が逆に相手の心を読んで隙を見て逃げる。 すんなり逃げたは良かったが、この自転車でそのまま帰るのはまずいと重い自転車をビルの隙間に投げ捨てる。自転車だけ投げ捨てるはずが、誤って自分も一緒に落ちてしまう。つまり冒頭のシーンへとつながっていくわけだ。時間軸をずらしたりするのは特に目新しいわけでもないけど、わけわからなくなるほど前後行ったり来たりするわけでもなく最後にするっと冒頭にリンクして終わるのは意外とすっきりいい終わり方だなと思った。
他に気が付いた点を箇条書きにすると、
・最後のセリフが、おしゃれ。「世界がこんだけ歪んでんだからさ、あんたの性格なんて歪んでないのといっしょだよ。」 小説書いてるだけあって、文学チック。
・人との関わりのわずらわしさを語るセリフが、いかにも本谷有希子らしかった(本音?)。「いっそ、みんなが演技してると割り切れた方が全然ましです。」
・だいたい本谷有希子のお芝居にはセクシャルなシーンがあるけど、今回は直球でSMシーンがズバーンと来た。
・役名に”しょうこ”とつけて、新ブログの女王中川翔子(ショコタン)を思いっきり揶揄するようなセリフを豪速球で投げちゃうし。
今回は彼女が書いた脚本ではないので、いつものどろどろ血液な愛憎劇ではなく、変な重たさのないサラっとした感覚が新鮮だった。乙一原作そのままでは流れに面白みがないのでやったであろう1ひねり入れた展開が少し話をわかりにくくしてたのと、いつもに比べ笑いの要素が中途半端だったのが残念なところ(わざと抑えた? でも、かきもちネタはしつこかった気がする)。乙一による巧妙な設定のシチュエーション、本谷による軽さと切なさが絶妙なバランスのキャラクター。原作を他人に任せ、演出に専念するという”アウェー”公演はいつもの濃い味を知ってる人からすれば何か物足りない感じがしなくもないが、これはこれで軽めの短編小説でも読んでる感じで悪くない。無理して年2本自作の公演を打ち、結果中途半端なものを作るぐらいなら、間にこういうのを挟んで1本1本のクオリティが上がるなら大歓迎だ。そういえば、今気が付いたけど演劇界でこういうのってあまり見ないよね。有名な小説から脚本をおこすというのはあるけど、作家に書き下ろしで書いてもらいそこからお芝居にするというのは新しいやり方のような気がする。同世代の人同士でコラボレートするというのもいい感じ。本谷にとっては、製作過程で作家とコミュニケートする事により作家から何かを吸収し、より作家としての自分を高めるいい機会にもなってそう。1石2鳥というわけか、、、。これから先もどんなアイデアがこぼれ出てくるのか楽しみな存在だ。


●劇団・本谷有希子  http://www.motoyayukiko.com/index.shtml
  ↑のブログ  http://blog.eplus.co.jp/motoyayukiko/
拙者ムニエル  http://www.sessya.com/
吉本菜穂子JALのCMに出演  http://www.jal.co.jp/jaltv/cm/
     (JALカード「カードで払いたい篇」)


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